大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)1760号 判決
第一 返還特約に基く実施料返還請求(主位的請求)について
一(一) 請求原因(一)項の(1)ないし(6)の事実は当事者間に争いがない。
(二) そして、右当事者間に争いない事実中(4)の事実によれば、本件契約において被告に既受領の実施料一部返還義務が発生する条件として約された事項は、特段の事由のない限り、当事者間に争いない約束条項のとおり、すなわち「別件訴訟において丸山工業のターポリン製造方法が本件特許権を侵害しないことが確定したとき」と解すべきであつて、この場合、特許権非侵害の結論が出された理由如何はこれを問わないものと解するのが当然である。
被告は、右条件にいう非侵害に確定した時とは「丸山工業が本件特許方法につき先使用による通常実施権を有していること」を理由として非侵害に確定した場合のみに限定解釈すべきであると主張している。
そして、(イ)被告本人の供述中には同旨の供述があり、(ロ)また前記当事者間に争いない別件訴訟の経過に成立に争いない乙第二号証、甲第二号証の一を総合すると、本件契約が締結された昭和三七年一〇月一六日当時は丸山工業が被告を相手方として京都地裁に別件訴訟を提起した直後であるところ、丸山工業のこの当時における訴訟態度は専ら丸山工業のターポリン製法は本件特許権との関係では先使用による通常実施権ある方法であることを理由として本件特許権を侵害するものではないと主張していたことが認められ、右事実によると本件契約締結にいたる双方の交渉段階で丸山工業の先使用問題が話題になつたことは容易に推認することができる。(ハ)現に成立に争いない乙第一号証によると、原告は本件契約の存続中である昭和四二年二月一〇日の時点で被告の本件契約にかかる種々の要求等に答える文書において「当社が生産加工を委託している丸山工業は、本件特許権について先使用による通常実施権があると主張して貴殿と係争中でありますが、当社としては一応貴殿の主張が正しいものと仮定して本件契約を締結したものであります。」と弁明していることも認められる。
しかし、前記(イ)の被告本人の供述はこれをそのまま措信することは困難である。(ロ)の点も被告の主張を裏付けるに足る決定的な事情と認めることは困難である。けだし、前掲甲第二号証の一、乙第二号証によると、丸山工業は一審においても必らずしも自社の製法が本件特許の技術的範囲に属することを明確に自白したとも窺えないこと(一審判決の事実摘示参照)、現に、丸山工業は、控訴審においては、一審で右主張が容れられなかつた関係もあつて、右のような主張に先立ち、これに加えて、自社製法が本件特許の技術的範囲に属しないことをも主張しており、また控訴審判決の理由説示中にも、右の主張追加は必らずしも自白の撤回とはならないと判旨していると思われる部分もあることが認められ、これらの事実関係に照らすと、丸山工業の一審での主張は、要するに、自社の製法が本件特許の技術的範囲に属するか否かは暫らく別として、専ら先使用による通常実施権存在の主張をしていたにすぎないと解するのが正鵠をえていると考えられるからである。また、(ハ)の点は原告が丸山工業の別件訴訟における当初の主張を事実として述べたものにすぎない。したがつて、仮りに丸山工業の別件訴訟態度をもつて原告の真意に近いものと考えるとしても、それが故に原告が本件契約締結にさいし同社の製法が本件特許の技術的範囲に属することを認め、これを前提とし、これを契約上の意思表示の一部に加えたとはとうてい考えられない。そして、本件では他に被告の前記返還特約条件制限解釈の主張を肯認するに足る特段の事情は見出せない。
かえつて、前掲甲第一号証の一ないし一九、成立に争いない乙第一一号証に前掲被告本人尋問の結果の一部を総合すると、本件契約は事柄の性質上双方法律専門家である弁護士を入れ入念に交渉を繰り返した結果成立したものであつて、もとより文書をもつて締結されたものであり、該文書には公証人の確定日付を受けているほど慎重に取扱われたものであるところ、その条項中、返還特約条件に関する文言は当事者間に争いない原告主張のとおりの約定をそのまま表わしているのであつて、何らこれを被告主張のように限定して解しうるような文言は用いられていないことが認められる。
結局、被告の前記主張は採用することができない。
(三) しかるところ、別件訴訟が昭和五三年二月一四日被告の上告棄却判決言渡しによつて確定したこと、右判決によつて是認された控訴審判決(但し、反訴に関するもの)によると、丸山工業のターポリン加工方法は何ら本件特許の技術的範囲に属しないから丸山工業は本件特許権を侵害していない旨その理由中に判断されていることは前記当事者間に争いない事実および前掲甲第二号証の一、二によつて明らかである。
そうすると、本件契約における被告の原告に対する実施料一部返還特約の条件は前記昭和五三年二月一四日に成就したと解さなければならないから、被告は右特約に基き原告に対し既に受領した実施料の一部金二、一八六万三、〇六六円を返還する義務がある(なお、右特約の趣旨についてさらに敷衍するに、(イ)右特約にいう別件訴訟とは丸山工業が起こした本訴のみでなく―本訴は本件特許権の存続期間満了消滅に伴い取下げられたこと当事者間に争いがない。―、これに牽連して被告から起こされた反訴をも包含すると解すべきである。また、(ロ)非侵害が確定するとは、別件訴訟において特許権侵害の存否そのものを訴訟物とする判決が言渡され確定した場合だけをいうのではなく、理由中の判断として非侵害が認定判断された判決が言渡され確定した場合をもいうことは本件契約の該当条項―たとえば甲第一号証の一の第一二条等―に照らし疑いをいれないところである。)。
二 そこで、次に被告主張の抗弁の当否について検討する。
(一) 契約解除、解約の主張について
被告は、本件契約が途中で解除または解約されたと主張して、右返還義務を免れようとしている。
しかし、右のような主張は本件契約の趣旨からして主張自体にわかに首肯し難いところである。むしろ、右のような返還特約は本件契約の解除解約によつて当然には失効しないと解するのが相当である。すなわち、本件契約は、上来の説示によつて明らかなとおり、当時原被告間には、果して原告のナイロンターポリン加工委託先である丸山工業の加工方法が被告の本件特許権を侵害するものであるか否かについて争いがあつたにもかかわらず、協議の結果、一応は侵害することを前提として原告側が実施料を支払うこととし、その確定的な清算は丸山工業と被告間の別件訴訟の結果をみたあかつきにこれをなすこととし、そのさいの処理についても予じめ具体的に約定したいわば暫定的な特許権実施許諾契約である。したがつて、本件契約が将来何らかの理由で終了するとしても、それがためにすでに支払つた実施料の清算特約がすべて失効すると解することは右特約の性質上相当でない(前掲甲第一号証の一ないし一九によると、侵害と確定した場合には逆に原告側が追加払いをすることも約されている点も参照。)もし、そのように解すると、右清算特約は本件契約存続中に別件訴訟が確定した時だけの約定となり、その結果は本件特許権の存続期間と別件訴訟確定に要する一般的な期間を比べるまでもなく極めて不合理であり到底当事者双方の意思に副うものとはいえない。
そして、以上のような帰結は、本件契約を次のように解することによつても可能であると考える。すなわち、本件契約のような継続的双務有償契約における契約終了効は将来に向かつてのみ及ぶものと解すべきであるところ(このことは被告が自ら主張しているところでもある。)、右返還特約を含む実施料清算特約はいずれも契約の終了によつて特段の影響を受けない過去の法律関係に関してなされた特約にほかならない。したがつて、右特約も契約の終了によつて失効するものではない。
はたしてそうだとすると、被告の解除解約の主張は主張自体有効な抗弁とならないものである。
のみならず、本件においては被告の主張する解除理由の存否や履行催告の要否(その主張がない)は暫らくおくとしても、少くとも被告主張の解除の意思表示および合意解約の存在を裏付けるに足る的確な証拠はにわかに措信し難い被告本人の供述以外にはない。
したがつて、被告の前記主張はいずれにしても失当である。
(二) 信義則違反の主張について
被告がこの項で主張するところは、要するに、被告の実施料一部返還特約にかからせた条件である別件訴訟控訴審判決の理由中の判断は誤つているから、このような判決の結果に基く原告の実施料一部返還請求は信義則に反し許されないというにある。
しかし、もともと本件契約において被告の実施料一部返還義務を別件訴訟の帰結如何にかからせた所以は、基本的には別件訴訟における判決の公正妥当であることを当然の前提とし、これに信を措いてのことと思われる(被告は、別件訴訟においても、自から当事者として十分に攻撃防禦権を行使しうる立場にあつたことにも想到すべきである。)。したがつて、仮りに被告のような信義則違反の主張を証拠によつて認めうるとしても、それは別件訴訟判決の内容が一読して明らかなほどに重大明白な瑕疵を有し、そのために、これを盾にとつて条件成就を主張することが著しく信義に反すると解されるような場合に限ると解すべきである。
しかるに、被告が別件訴訟の控訴審判決について非難するところは、その主張自体、名を再審事由に藉りて、当該受訴裁判所がその専権によりした証拠の取捨選択その他の判断に対するものであつて、これらの非難はすべて被告においてすでに上告理由とし、かつ上告審でも理由なしとされたところのものであるにすぎない(甲第二号証の二の上告理由第一点ないし第三点及び第五点とこれに対する上告審の判断参照)。すなわち、被告の非難するところは、まさに別件訴訟における争点として双方で攻防が重ねられ十分に審理された事項を蒸し返すに等しいものであつて、到底信義則を適用しうるようなものではない。その他、被告の提出した全証拠によつても被告の前記主張を肯認しうるような事情は見出せない。
被告の信義則違反の主張も失当である。
(三) 相殺の主張について
(1) 原告が昭和四七年二月分すなわち同年一月一六日以降本件特許権が存続期間満了により消滅する同年一二月六日までの間本来なら支払うべきであつた実施料合計三二七万三、一七六円を支払わなかつたことは当事者間に争いない(なお、当事者間に争いない別表のたとえば最終の昭和四六年一二月分とは右に「二月分」というのとは異なり同年一二月一六日から翌年一月一五日分をいうものと解される。また、前掲甲第一号証の一八の第一四条および弁論の全趣旨によると、本件契約は本件特許権消滅前である昭和四七年八月一五日をもつて終了していることが認められるから、原告としてはその後の生産分についてはいずれにしても実施料を支払うべき根拠約定を欠くことになると思われるが、この点は暫らくおく。)。
そうすると、被告としては本来右の金額中返還すべき分を差し引いた半額一六三万六、五八八円はこれを原告に対し支払請求することができる債権ということができる(なお、このように非侵害が確定してもなお被告が一部の実施料の返還をしなくてよいこととした趣旨は、被告が五抗弁の(三)で主張するとおり、原告はたとえ非侵害の場合でも本件契約により一定のメリツトを受けているという経済上または事実上の効果に着目したためと推測される。)。そして、被告が本訴において右債権を自働債権として原告の訴求する実施料返還請求債権と対等額で相殺したことも訴訟上明らかである。
(2) そこで、次に原告の主張する右自働債権時効消滅の再抗弁について検討するに、まず、右自働債権(実施料債権)は少くとも債務者原告の商行為に因つて生じた債権であるから、五年の短期消滅時効にかかる(大判大正四年二月八日判決民録二一輯七五頁。商法四条一項、五二条一項、五〇三条、五二二条)。したがつて、右実施料債権はその最終支払期日である昭和四七年一二月末日(前掲甲第一号各証により、支払期日が〆切日該当月の月末であること明白)から五年を経過した昭和五二年一二月末日をもつてすべて時効消滅していることが認められ、且つ原告が右消滅時効を援用していることも本件訴訟上明らかである。
(なおまた、受働債権(原告の訴求債権)の履行期が別件訴訟の上告判決言渡日たる昭和五三年二月一四日であること上来説示のとおりであるから、両債権は自働債権時効消滅前には相殺適状になかつたことも明らかである。民法五〇五条一項、五〇八条。)
してみると、被告の前記相殺の抗弁はひつきよう時効消滅した自働債権によるものであつて、その余の原告主張を判断するまでもなく理由がない。
(3) なお、被告は、原告の右時効消滅の主張は信義則に反し許されないかのように主張しており、その理由とするところは、要するに、原告は、本件特許権に関す特許無効審判の審決取消請求事件について東京高裁が昭和四六年一〇月二九日に「本件特許を無効とする請求人の申立は成り立たない」とした特許庁の審決を取り消す旨の判決(甲第三号証)があつたことを理由として実施料の支払いを留保するようになつたのであるから、少くとも右訴訟の帰すうが明確になるまでの期間について右実施料の消滅時効進行を援用することは信義に反するというのである。しかし、原告の債務不履行の理由が如何なるものであるにせよ、被告としては右債権を確保するため時効中断の措置をとりうる立場にあつたのであるから、このような措置をとらないまま原告の時効の援用を非難することは法律上未だ正当な理由を見出すことはできない。
被告の前記主張も失当である。
三 以上のとおりであるから、原告の被告に対する本件契約に基き既に支払つた実施料の一部返還金二、一八六万三、〇六六円およびこれに対する右返還金支払期日の翌日たる昭和五三年二月一五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める主位的請求は正当である。
第二 結論
よつて、原告の本訴請求はその予備的請求について判断するまでもなく主位的請求に理由があるからこれを認容する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
(一) 返還特約に基く既払い実施料の返還請求(主位的請求原因)
(1) 被告はかつて左記特許権の権利者であつた(以下これを本件特許権といい、その登録請求の範囲を本件特許方法という。昭和四七年一二月六日の経過により存続期間が満了し消滅。)
(イ) 発明の名称 「布帛に防水性皮膜を形成せしめる方法」
(ロ) 出願 昭和三一年二月八日(特願昭三一―二九七五)
(ハ) 公告 昭和三二年一二月六日(特公昭三二―一〇二〇〇)
(ニ) 登録 昭和三四年四月二八日(第二五一八九六号)
(2) 原告はかねてより訴外丸山工業株式会社(以下丸山工業という)に対しナイロンターポリン(ナイロン製防水布)の委託加工を継続的に注文していたところ、昭和三七年に至り突如被告から、右製品は本件特許方法によつて生産されたものであると主張し、相当の実施料を支払わない限り右製品は廃棄請求の対象となる旨の通告を受けた。
(3) そこで、丸山工業は立場上被告の右のような主張を争い、昭和三七年八月一〇日被告を相手方として京都地方裁判所に特許権不侵害確認等請求訴訟を提起した(同庁昭和三七年(ワ)第六八三号)。被告はこれに応訴するとともに、やがて逆に丸山工業に対し本件特許権侵害を理由とする損害金一、〇〇〇万円と附帯の遅延損害金を請求する反訴を提起した(同庁昭和三九年(ワ)第六四七号。以下これらを別件一審訴訟という。)。
(4) しかし、原告としては徒らに被告と争うことは得策でないと考え、一応は被告の言い分を認め被告に実施料を支払つて丸山工業その他への発注を続行し、ただ将来前記別件訴訟において丸山工業のターポリン製造方法が本件特許権を侵害しないことが確定したときは、丸山工業発注分に関しては既払い実施料のうちの一定額の返還を受けることとし、昭和三七年一〇月一六日被告と交渉の結果右のような約定を骨子とする本件特許権の通常実施権設定契約を締結した(なお、右当初の契約は存続期間を二年としたため、その後も逐次同様骨子の契約を更新又は新契約の形で締結し、また、授受金額等の具体的事項については別途覚書による形で合意した。以下、これらを一括して本件契約という。甲第一号証の一ないし一九参照。)。
そして、右契約における実施料返還約束の詳細は次のとおりである。
1 昭和三七年一〇月一六日付契約書およびその後九回の覚書により、丸山工業が原告に出荷するナイロンターポリンのうち昭和三七年一〇月分より昭和四〇年六月分までについては、一メートル当り一円八〇銭の割合による金員
2 昭和四〇年七月一六日付契約書およびその後の覚書により、丸山工業が原告に出荷するナイロンターポリンのうち昭和四〇年七月分より昭和四二年七月分までについては、支払実施料全額
3 昭和四二年八月一六日付契約書および覚書により、丸山工業が原告に出荷するナイロンターポリンのうち昭和四二年八月分より昭和四三年七月分までについては、支払実施料の半額
4 昭和四三年八月一六日付契約書および覚書により、丸山工業が原告に出荷するナイロンターポリンのうち昭和四三年八月分から昭和四五年七月分までについても、支払実施料の半額
5 昭和四五年八月一六日付契約書および覚書により、丸山工業が原告に出荷するナイロンターポリンのうち昭和四五年八月分から昭和四六年一二月分までについても、支払実施料の半額
(5) 原告はその後本件契約に従い被告に対し別紙一覧表記載の期間中に同支払実施料欄記載のとおり合計二八一三万五、七一八円の実施料を支払つてきた。
(6) ところが、別件訴訟は結局次のとおり丸山工業のターポリン製造方法は本件特許権を侵害しないとの理由により同社の勝訴が確定した。
まず、京都地方裁判所は昭和四三年四月二五日丸山工業の別件本訴請求を棄却し、被告の反訴請求を九〇九万六、五一五円とその附帯金員請求の限度で認容し、その理由中で、丸山工業の本件特許権の侵害を認めた。
しかし、大阪高等裁判所における控訴審(同庁昭和四三年(ネ)第七二四号)においては、昭和五二年三月三一日丸山工業の製造方法はなんら本件特許発明の技術的範囲に属さず、それゆえ本件特許権を侵害していないことを理由として反訴につき丸山工業敗訴部分を取消し、被告の反訴請求を棄却した(なお、丸山工業側の本訴請求に関する訴部分は被告の本件特許権が昭和四七年一二月六日期間満了により消滅したため訴訟維持の必要がなくなり、昭和四九年三月二五日取下げられた)。
そこで、被告は最高裁判所に上告したが(同庁昭和五二年(オ)第九三五号)、同裁判所は昭和五三年二月一四日上告を棄却し、ここに別件訴訟(但し、反訴部分)は丸山工業勝訴のまま確定したのである。
(7) したがつて、丸山工業が原告の委託加工注文に応じてきたナイロンターポリンの製造方法は別件訴訟によつてなんら本件特許権を侵害するものでなかつたことに確定した。
そこで、被告は本件契約に基き原告に対し既に受領ずみの前記実施料のうち別紙一覧表の返還請求額欄記載の金額合計金二、一八六万三、〇六六円の支払いをなすべき義務が発生した。
(二) 不当利得返還請求(予備的請求原因)
仮りに、原告の前記主張が認められないとしても、本件契約はもともと丸山工業のナイロンターポリン製造方法が本件特許権を侵害するものであることを前提として締結されたものであつたところ、実は右のような前提は全くなかつたこと前記のとおりである。したがつて、本件契約は要素に錯誤があり無効のものである。そうすると、被告の受領した前記原告出捐にかかる実施料は法律上の原因なくして得た利得であり、原告がこれに因り同額の損失を受けたことも明らかであるから、被告は原告に対し現存の不当利得金(原告の支払つた前記実施料全額)二、八一三万五、七一八円を返還する義務がある。
(三) 結論
よつて、原告は被告に対し(1)主位的に本件契約に基く返還約束金二、一八六万三、〇六六円およびこれに対する右金員支払義務発生の日である前記別件訴訟判決確定日の翌日(昭和五三年二月一五日)から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、(2)予備的に前記不当利得金のうち金として主位的請求と同額の金員およびこれに対する右同旨の附帯遅延損害金の支払いを、求める。